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認知症
【医師監修】認知症における失認
『3分で読める認知症』として、『⑯ 失認』をお届けいたします。
認知症の症状の一つである「失認」は、五感が正常に働いていても、物事を正しく認識できなくなる状態です。
例えば、目の前にある物が何かわからなくなったり、自分のいる場所や物の位置関係が把握できなくなったりすることがあります。失認は、日常生活にさまざまな困難をもたらしますが、適切な対応やサポートによって、その人らしい生活を支えることができます。
この記事では、失認の特徴や治療法、介護のポイントについて詳しく解説します。

■失認とは?
失認とは、五感が正常に働いているにも関わらず、物事を正しく認識できない状態をさします。例えば、目の前にある物が何かわからなくなったり、空間の位置関係がわからなくなったりすることがあります。認知症では、脳の頭頂葉や側頭葉、後頭葉などが障害されることで、この失認が起こることがあります。
■認知症により起こる失認の特徴
認知症による失認には、さまざまな種類があります。
- 視覚失認:物の形や大きさ、色などを正しく認識できない。例えば、コップをコップと認識できないことがあります。
- 聴覚失認:聞いた音が何の音であるか、またはその意味が理解できない状態です。
- 空間失認:空間における自分の位置や、物同士の位置関係を把握できない。例えば、部屋の中で迷子になったり、ドアの位置がわからなくなったりすることがあります。
- 体感覚失認:自分の体の部位や、体と空間の関係を把握できない。例えば、自分の手がどこにあるかわからなくなったり、鏡に映った自分を自分と認識できなくなったりすることがあります。
これらの失認は、日常生活に大きな影響を与えます。食事の際に、食事と食器を区別できずに困ったり、着替えのときに服の向きがわからなくなったりすることがあります。
■失認の治療
残念ながら、失認を完全に治す治療法はまだ確立されていません。しかし、薬物療法やリハビリテーションによって、症状の進行を遅らせたり、日常生活の機能を維持したりすることが可能です。
- 薬物療法:認知症の進行を遅らせる薬物療法が、有効な場合があります。
- 現実療法:患者さんが置かれている状況を具体的に説明したり、視覚的な手がかりを与えたりすることによって、混乱を軽減します。
- オリエンテーション療法:時間や場所、人、状況などを繰り返し伝え、患者さんの見当識を保つようにします。
- 感覚刺激療法:視覚や聴覚、触覚などの感覚を刺激することで、脳の機能を活性化させます。
- リハビリテーション:認知機能のリハビリテーションや、日常生活動作訓練などが行われます。
- 環境調整:部屋の照明を明るくしたり、家具の配置を工夫したりするなど、環境を整えることで、失認による混乱を軽くできます。
■失認の人を介護するときのポイント
失認のある人を介護する上では、以下の点に注意することが大切です。
- 穏やかな声掛け:大声でしかったり、急かしたりせず、穏やかな声掛けを心がけましょう。
- 視覚的な情報:視覚的な情報を最大限に活用しましょう。例えば、大きな文字で名前を書いた名札をつけたり、絵を使って説明したりすることが効果的です。
- 単純な指示:複数の指示を一度に出すのではなく、一つ一つの指示をゆっくりと、簡潔に伝えましょう。
- 安全な環境:転倒や事故を防ぐため、部屋の環境を安全に保ちましょう。
- 家族や専門家との連携:家族や、医師・看護・ケアマネジャーなどの専門家と連携し、適切なケアを提供しましょう。
失認のある人は、いろいろな困難を抱えていますが、適切なケアを受けることで、その人らしい生活を送ることができます。介護者の皆さんは、その人への理解を深め、温かい支援を提供してください。